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大腿骨頚部骨折

<概念>

青壮年者はかなり大きな外力を受けても頚部骨折や転子部骨折を起こすことは少ないです。しかし高齢者では軽微な外力や時には外傷機序が明らかでない場合でも容易に本骨折か大腿骨転子部骨折が発生します。とくに高齢の女性が転倒し、下肢が短縮し外転、外旋させて起立不能になっているときは、まず本骨折か大腿骨転子部骨折を疑わなければいけません。

<疫学>

大腿骨頚部および転子部骨折に関する全国調査によると2007年時点での推計骨折発生数は男性31300人 女性116800人 計148100人でした。参考までに1997年時点では男性20800人 女性71600人 計92400人です。団塊の世代が後期高齢者となる2025年には今後も増え続けていくことが予想されます。なお、大腿骨頚部骨折よりも転子部骨折のほうが発生数は多く、より高齢者に多発する傾向があります。

<病因>

大腿骨頚部骨折も高齢者に多発するので、骨粗鬆症を基盤とすることは当然です。骨密度の低下や骨の脆弱化は骨折発生の危険因子となっているばかりでなく、治療も困難にします。高齢の女性に多いという点では大腿骨転子部骨折と同様ですが大腿骨頚部は解剖学的に独特な頚体角を有しており、関節包内であるために骨膜が存在せず、血行が特殊である点で、病態が異なっています。そのため転子部骨折と比べると骨癒合には不利となる点が大きな違いとなります。

<症状>

一時的には骨折発生後、すぐに股関節の疼痛を生じ起立不能となります。さらに骨折した側の下肢が短縮していることが多いです。典型的には仰臥位で下肢挙上できず、Scarpaの三角に圧痛を認めます。自発痛は安静時には軽微なこともありますが、股関節の運動時、とくに内外旋時の股関節部あるいは会陰部の痛みは程度の差こそあるものの必ず伴っています。注意すべきは骨折部がかみ合っている場合や不全骨折、occult fracture(不顕性骨折とも呼びます)の場合です。これらの場合は骨折後の機能障害が軽微で歩行可能な例が散見されることがあります。

<画像診断>

肢位や外観が似ている場合に、大腿骨転子部骨折や外傷性股関節脱臼と誤ることがあります。診断を明確にし骨折の転位の程度や骨折型を判定するため2方向の股関節単純レントゲン撮影が必須となります。正面像は両下肢を10-20°内旋して側面像はラウエン像を撮影することが一般的です。

上で述べたように不全骨折やoccult fractureなどでは、初期の単純レントゲン検査では診断がつかないことがあります。この場合、MRI、骨シンチグラフィー、CTのいずれかを追加することが望ましいですが、MRIが診断に最も有用です。

<治療>

前述したように大腿骨頚部骨折は高齢者に多発し骨粗鬆症を基盤として発生することが多いです。骨密度の低下や骨の脆弱化が骨折発生の危険因子となっているばかりでなく、骨折そのものの治療も困難にします。さらに骨癒合に不利な条件が多いため人工骨頭置換術が選択されることが多い傾向にあります。しかしながら骨折治療の原則は骨接合術であり年齢、全身状態、社会的要素、骨癒合の可能性も含めて検討し術式が選択されるべきです。

骨癒合の可能性が高ければ骨接合術、低ければ人工骨頭置換術になります。その際に参考となる分類としてGarden分類、修正Garden分類というものがあります。

①保存療法

基本的には本骨折は全例が手術適応となります。しかしながらなんらかの理由によって骨折そのものの治療が行えない場合にのみ適応となります。

②手術療法

  • 骨接合術

様々な金属、鋼線、ピン、ねじ、髄内釘などを用いて固定します。髄内固定の固定力をますためにプレート固定を追加したりピンやねじを複数用いることもあります。

  • 人工骨頭置換術

骨折した骨頭を除去し金属製の骨頭と置換する手技です。大腿骨近位部の髄内をり掘り、ステムを挿入し骨頭と接続します。以前はセメントを使用してステムを固定していましたが現在はセメントレス固定法が主流となっています。将来的な摩耗や緩み、脱臼などの可能性があります。

<合併症>

骨接合術による合併症として偽関節、大腿骨頭壊死、late segmental collapseなどがあります。偽関節に陥った症例でもすべての患者が高度の機能障害を呈するわけではありません。しかしほとんどの方は疼痛や下肢機能低下があり日常生活に支障をきたします。その場合は手術適応となります。

人工骨頭置換術による合併症として術後脱臼が挙げられます。そのほかには骨セメントによる術中の血圧低下やショック、感染(遅発性感染も含む)、下肢の深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症、proximal migration、ステムの緩み、ステム周囲の骨折などが挙げられます。

本骨折の予防としては骨粗鬆症治療が大原則となります。受傷前であれば未然の骨折を防ぎ、受傷後であれば対側の続発性骨折を予防することにつながるからです。

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