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大腿骨転子部骨折

<概念>

大腿骨転子部骨折は大腿骨解剖頚に発生する大腿骨頚部骨折と並んで高齢者に発生する代表的な骨粗鬆症関連骨折です。従来から大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折は「大腿骨頚部骨折」と総称されることがあり、現在では大腿骨頚部骨折は頚部内側骨折、大腿骨転子部骨折は頚部外側骨折と呼ばれています。

我が国の高齢化とともに大腿骨転子部骨折の患者数は一貫して増加しています。大腿骨頚部骨折の項目でも述べたように高齢化のピークが予想される2043年頃までこの傾向は続くと推測されています。大腿骨転子部骨折は単に受傷者が多いというばかりでなく患者の健康に与える影響が極めて大きくなります。受傷を契機として全身状態が悪化して死に至る事も稀な事ではありません。また歩行能力の低下によって家族の介護や社会の支援、福祉サービスが必要となる患者も多くなっています。

<疫学>

全国疫学調査によると大腿骨近位部骨折は年々増加しており1997年には1年間に約92400件、2007年には148100人と報告されています。このうち頚部骨折と転子部骨折の内訳は明らかにされていませんが半数以上が転子部骨折と考えられています。

日本整形外科学会骨粗鬆症委員会の調査によると1998〜2000年の間に発生した大腿骨近位部骨折のうち転子部骨折は55.7%であり発生率を年齢別に見れば60歳を過ぎると徐々に上昇し、70歳以降は指数関数的に急増することが明らかとなりました。転子部骨折と頚部骨折の比率を見ると70歳前半までは頚部骨折が優位ですが70歳半ばで逆転して85歳以上では転子部骨折が圧倒的に多くなります。これは欧米においても同じ傾向にあります。

より高齢になるほど転子部骨折が多くなる理由としては転子部が頚部よりも海綿骨の割合が高いので加齢に伴う骨粗鬆症重症化の影響を受けやすいためと推測されています。

<病因>

青壮年者の転子部骨折は交通事故、高所からの転落などの高エネルギー外傷によって発生します。これに対して高齢者の大腿骨転子部骨折はほとんど全てが立った位置からの転倒によって生じます。

高齢な大腿骨転子部骨折患者の受傷機序に関する聞き取り調査では、ほぼ例外なく転倒の病歴が認められています。高齢者の大腿骨頚部骨折では転倒、打撲などの外傷歴を全く欠く患者が少なからず存在しますが、大腿骨転子部骨折が外傷の関与なく発生することは非常に稀です。

<症状>

症状としては骨折転位の程度に応じた徴候が認められます。

転位がないか、あっても小さい場合は大転子部の圧痛、股関節の運動痛の他には所見が乏しいこともあります。骨折が大きく転位している場合には、患肢短縮、外旋位が特徴的です。受傷後数日を経て受診した場合には大転子部に腫脹や皮下出血班が認められることがあります。大腿骨転子部骨折の局所所見は頚部骨折よりも一般的に高度であることが多いです。

また高齢者では、短時間の皮膚圧迫でも褥瘡が生じることがあります。そのため仙骨部や踵部の観察にも注意が必要なのは言うまでもありません。

<画像診断>

単純レントゲン検査によって骨折線が確認されれば診断確定となります。

稀ですが、大腿骨子部骨折の中には初診時のレントゲン検査で骨折線が認知できないものがあります。(不顕性骨折;occult fractureとも呼ばれます)このような骨折を安易に打撲と診断することは危険です。病歴と局所所見から骨折が疑われる場合には免荷を指示しできるだけ早急にMRIなどを施行することが求められます。

<治療>

①保存療法

基本的には本骨折は全例が手術適応となります。しかしながらなんらかの理由によって骨折そのものの治療が行えない場合にのみ適応となります。

②手術療法

早期離床を目的とした手術となるため基本的には受傷当日や翌日に手術をする必要があります。しかし我が国ではこのような人的、物的余裕のある医療機関が少ないのが現状です。それでも待機時間が短いほど予後が良好であるとの報告もあり早期手術を可能とする体制の整備に最大限の努力が払われるべきです。

  • 骨接合術

内固定材料としてはプレートとスクリュー、ピンなどを併用したもの、

現在主流である髄腔に髄内釘を挿入した後、スクリュー等を用いて骨折部を固定するタイプのものなど様々です。

<合併症>

代表的なものとして以下が挙げられます。

内固定の機械的破綻

偽関節

ラグスクリューの過剰なsliding

変形治癒

<生命予後>

大腿骨転子部骨折受傷1年以内の死亡率は10-30%であり高率です。死亡率は受傷1年以降では骨折の余命に与える影響はほぼ認められなくなります。

生命予後に関連する不良因子は80歳以上、男性、合併疾患の数と重症度、認知症の有無、受傷前歩行能力とされています。

 

本骨折の予防としては骨粗鬆症治療が大原則となります。受傷前であれば未然の骨折を防ぎ、受傷後であれば対側の続発性骨折を予防することにつながるからです。

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