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骨折の治癒について

[2020.11.10]

整形外科であればもちろん専門としている疾患の一つに「骨折」が挙げられます。

骨折の原因としては多岐に渡り、転倒・転落・打撲・交通事故・スポーツ中の受傷など様々です。整形外科に限らず、骨折を経験したことのない医師はいないと思います。

さて、そんな骨折についてのお話です。

理論的な話をするとわかりにくいのでシンプルな解説でお話ししたいと思います。

骨折した患者さんによく聞かれることとしては

「いつ頃なおりますか?」「骨はくっついていますか?」

と聞かれることがしばしばあります。

骨折が治癒したと臨床において判断する時は、患者さんの自覚症状と他覚症状を総合して判断しています。

 

つまり、患者さんの訴える痛み(物を持った時の痛み、動かした時の痛みなど)や医師による診察(圧痛、可動性の消失)を評価します。

ただ可動性といっても骨折部が不安定ならグリグリ動かしたりはしません。だって痛いに違いないですから、、

もちろんレントゲンでの評価も重要です。

連続した一定の期間の同部位のレントゲンを比較すると骨折線が徐々に不明瞭になっていきます。

そして骨折部の周りに仮骨が作られます。骨折は仮骨形成の進行と骨折線の不明瞭化・消失によって治癒したと判断しています。

骨折の治癒期間と年齢との関係

 

骨には再生能力があり、骨折が起こると一定時間のうちに骨折部に新しい骨の形成(仮骨と呼びます)が生じて修復されることが知られています。

これは組織再生による修復であり、骨の再生能力は若いほど強くなり、加齢によって徐々に低下することがわかっています。

つまり骨折した骨がくっつく期間は若いほど旺盛ということになります。(骨の代謝性疾患などがあれば話が異なるのでここでは詳細は省きます)

骨折の再生修復は骨折部初期の骨折部での血腫形成→炎症細胞の遊走→血管新生、軟骨石灰化、軟骨除去、骨形成→再造形というサイクルを通じて行われます。

これらの過程は炎症期→修復期→再造形期に分けられるのが一般的です。

よく臨床をしていて外来で聞かれることがあるのですが、

「骨折した骨は何日でくっつくのか?」という質問です。一概には言えませんがその患者さんの年齢や背景を見てお答えしています。

では、具体的に代表的な骨折がどれくらいで治癒するかまとめておきます。手術せずにギプスや外固定を利用した保存療法を選択した場合です。

ちなみに骨折型(複雑骨折or単純な骨折か)年齢や性差、既往歴、喫煙歴、ステロイド服用などの因子を考えるとキリがないのでおおよその目安としています。

橈骨遠位端骨折 約6−8週
鎖骨骨折 約6−8週
上腕骨近位端骨折 約8−12週
肘頭骨折 約6−8週
大腿骨頚部骨折 約8−12週(これに関しては基本的に全例手術)
膝蓋骨骨折 約8−12週
足関節骨折 約8−12週
踵骨骨折 約8−12週
胸腰椎骨折 約8−12週

 

ご覧になっていただくとお分かりのようにそれぞれの骨折の治療期間は、上肢の骨折は約2ヶ月、下肢の骨折は約3ヶ月といった感じです。

 

もちろん個人差はありますが、これくらいの目安を頭に入れつつ診察時の所見、レントゲン画像を見ながらギプスをいつ外すか、骨折難治例に超音波治療を開始するか、コルセットをいつまで装着するか、など検討しています。

骨癒合とは

 

整形外科医が主にもちいている骨癒合という言葉は骨折の治癒過程の最終段階であり、正常の骨折治癒過程としては一次性骨折治癒と二次性骨折治癒があります。

 

一次性骨折治癒(primary fracture healing)

仮骨を形成せずに骨折部が癒合する治癒形式になります。

骨折部の断端が正しく解剖学的にきっちりと整復されていたり、転位(ずれ)がなく強固に固定されたときにのみ生じます。臨床的にはあまり好ましい骨癒合形式とはいえません。

二次性骨折治癒(secondary fracture healing)

仮骨を形成して癒合する治癒形式になります。

骨折部に生じた血種内に肉芽が形成され、やがて仮骨によって両骨折断端が連結されたあと、局所の力学的要請に応じた強度を有する骨として再造形(リモデリングremodeling)されていきます。

骨折端に多少でも血種が存在する隙間がある場合には、常にこの二次性骨折治癒形式で骨癒合に至ります。

一次性骨折治癒に比べて望ましい骨癒合形式といえます。

 

上記のように述べましたが、「骨癒合」の定義に関しては確立されたものがなく、日常の臨床現場において骨癒合時期の判定は各医師の判断に委ねられているのが現状です。

 

おおむね日常的にレントゲンで評価することが多い我々整形外科にとっては、骨折部に現れた仮骨の面積が増加し骨折間にはっきりとした濃度変化を認めた時期を架橋形成時期と判断することが多いです。

さらにその面積、濃度が最高値に達したと判断した時期を骨癒合と判断するケースがほとんどです。

 

「骨癒合」という言葉の使用については、教科書的(※1)にはリモデリングを受けながら最終的に骨の連続性を取り戻した状態(=骨折治癒)を骨癒合と述べています。

他の教科書(※2)でもGurltが示す四肢骨折に対する平均癒合日数が骨折治癒を示したものとしては短期間すぎると述べています。

しかも骨癒合は架橋仮骨が形成される時期と考えるべきであり臨床的骨癒合とは一致しないとしています。

 

このように各教科書、成書によっても具体的な骨癒合の定義は記載されておらず、臨床の現場でも各医師によって判断が異なることもしばしばです。

ある程度肌感覚ではありますが下記のような事やレントゲン画像、手術していれば術中の安定性、固定性などを考慮して判断しています。

骨折の治癒や治療期間に影響する因子

 

骨折部が仮骨で結合され、ある程度の運動負荷に耐えられるようになるには4-12週間を要します。

古くから有名なGurltの表は各部位の骨折の治癒期間を示していますが年齢、栄養状態、部位などによっても異なります。

例をあげると以下のようになります。

 

全身的因子  

年齢、栄養状態、代謝性疾患やホルモン異常など基礎疾患の有無、薬剤など

局所的因子

皮下骨折か開放性骨折か、感染の有無、骨折部位、転位の程度、骨折部への軟部組織の介在など

リハビリの重要性

 

若い方であれば骨折した後でもリハビリを行うことで受傷前と同等レベルの機能を再獲得することも可能なことが多いです。

しかしながら高齢者、特に下肢の骨折などでは受傷前の機能を再獲得することは難しく、こと歩行能力に関しては低下することもしばしばあります。

例を挙げると受傷前は通常歩行であった方が大腿骨近位部骨折を起こすと杖歩行レベルに、もともと杖歩行レベルであった方が同じ骨折を起こすと歩行器歩行レベルになったりといった感じです。

下肢の骨折に限らず、上記の骨折においてもリハビリは重要です。

全身状態が許すのならば、手術することで寝たきりや関節の拘縮、合併症による全身状態の悪化を防ぐことが可能となります。

また、それに加えてケガしない、ケガしにくい体づくりも重要となります。

普段の生活に日常的に運動を取り入れることで筋力やバランス能力、健康的な心身を保つことができます。

さらにバランスの取れた食事、十分な睡眠を確保することが生活習慣病を予防、改善することにもつながります。

 

本日は以上になります。

 

【参考文献】

・標準整形外科学 第8版

(※1)神宮司誠也:骨折の治癒過程.骨折・脱臼(改訂2版),pp.47-59.鳥巣岳彦 冨士川恭輔 編集,東京,南山堂,2005.

(※2)糸満盛憲:骨折の治癒過程.神中整形外科(改訂22版)上巻,pp.217-224.杉岡洋一監修,岩本幸英編集,東京,南山堂,2007.

むつみクリニック 整形外科・骨粗鬆症専門外来

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