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- 頚椎症性神経根症
疾患概念
頚椎症性神経根症は椎間板膨隆、椎間関節の肥厚、骨棘形成、頸椎アライメント異常などの頚椎症性変化によって神経根が傷害され頚部痛や上肢の痛み、しびれ感がみられる疾患です。椎間板ヘルニアが原因であれば頚椎椎間板ヘルニアに、後縦靭帯骨化症が原因なら病名は頚椎後縦靭帯骨化症になるので、頚椎症性神経根症は狭義には骨棘が原因のものをいいます。通常は単一神経根が障害されるため症状は片側性で、障害神経根に対応する比較的限局した領域の痛み、感覚障害、筋力低下、深部腱反射の低下が認められます。また脊髄症はみられないので、体幹および下肢の運動感覚障害、膀胱直腸障害、深部腱反射亢進や病的反射は認めません。
症状と病態
40-50歳代の男性に多くみられ、障害神経根はC7が最も多くなります。臨床症状としては多くの症例において頚部痛で発生し上肢痛や手指のしびれを遅れて生じることが多い。神経根刺激症状として上肢のしびれ、放散痛や異常感覚などがあります。全般的に予後は良好で半数以上は保存療法で軽快し、手術療法に至る症例は少ないです。
検査および所見
①脊柱所見
頚椎の可動域制限がみられ、特に伸展(後屈)すると症状が増悪あるいは誘発されることがあります。
②理学所見
神経根症状では、一側(ごく稀に両側)の肩甲周囲の疼痛、上肢へ放散する疼痛、前腕や手指のしびれと感覚障害、脱を認めます。疼痛部位、深部腱反射の低下、感覚障害部位、筋力低下が生じる筋肉がわかれば障害神経根を高位診断できることが多いです。またSpurlingテストやJacksonテストなどの頚部圧迫テストによって放散痛が再現されやすいです。
③単純レントゲン所見
レントゲン所見では骨棘形成、椎体終板の骨硬化、椎間板高減少、椎間孔狭窄がみられ、いわゆる脊椎症性変化がみられる。しかしレントゲン上で変性所見があっても無症状の例も多く注意が必要です。
④MRI
椎間板の変性の度合い、脊髄の圧迫の程度、椎間孔の状態、神経根圧迫の程度を評価することができます。
⑤CT
骨棘や脊柱管の状態を評価することができます。
⑥選択的神経根ブロック
痛みの程度の評価や責任高位を同定するために重要な検査となります。
診断のポイント、鑑別疾患
頚椎の伸展によって上肢のしびれや痛みが誘発されれば本症を疑い、最終的には神経学的所見や画像診断の結果を考慮して総合的に診断します。鑑別すべき疾患として頚椎腫瘍、頚髄腫瘍、後縦靭帯骨化症、頚椎症性脊髄症、胸郭出口症候群、Pancoast症候群、neuralgic amyotrophy、腕神経叢障害、尺骨神経麻痺、手根管症候群、肩関節周囲炎、末梢神経炎などが挙げられます。また頚部や肩腕部に痛み、こりや不快感、脱力感などの不定愁訴を呈する場合は頚肩腕症候群の患者であることが多いので注意が必要となります。
治療方針
本症では、薬物療法、頚椎牽引、頚椎装具などの保存療法が基本となります。症状が軽度ならば消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などの投薬と局所安静(頚椎伸展位を避ける)、中等度ならば頚椎牽引や頚椎カラー装着、重度ならばステロイド薬の投与やブロック療法(星状神経節ブロック、腕神経叢ブロック、頚部硬膜外ブロック、頚椎神経根ブロック)などを追加します。多くの症例では保存療法によって症状が軽快しますが、明らかな筋力低下や筋委縮をきたした症例では手術が行われることもあります。
手術療法
前方固定術(多くは1椎間固定)あるいは後方アプローチによる椎間孔拡大術が行われ、手術成績は一般的に良好とされています。