脊髄損傷について
今回は脊髄損傷について説明したいと思います。ひさしぶりの各論の内容になります。
皆さんは「脊髄損傷」と聞くとどのような病態、症状を思い浮かべるでしょうか?
では早速解説に移りたいと思います。
<概念 疫学>
脊髄を保護している脊椎に外力が加わり、骨折や脱臼などで組織の破綻が生じると脊柱管内に存在する脊髄を損傷する可能性があります。我が国における脊髄損傷の発生率は人口100万人ぬつき約40人で、欧米と大差はないとされています。つまり年間約5000例の新規脊髄損傷例が発生していることになります。その一方で治療を終えて自宅や施設で生活している慢性期の脊髄損傷者は約20万人といわれています。受傷時の年齢分布をみると20歳と60歳にピークを持つ二峰性で欧米に比べ高齢の脊髄損傷が多いことが特徴です。またわが国において頚髄損傷のうち非骨傷性頚髄損傷が50%以上を占めている点も注目すべきです。
<原因>
受傷原因をみると、以下の順になっています
第1位 交通外傷
第2位 高所からの転落
第3位 平地や階段での転倒
第4位 打撲や下敷き
<症状、診断>
脊髄損傷の程度は大きく完全損傷と不全損傷に分けられます。完全損傷とは、損傷部ですべての神経伝導路が遮断された状態で、それ以外を不全損傷と呼びます。
受傷時に完全麻痺であっても必ずしもその後も引き続き完全麻痺のままとは限らず、時間経過とともに不全麻痺へと改善する例もあります。
完全損傷
損傷部において上下間を連絡するすべての伝導路が遮断された状態を指します。すなわち運動と感覚の完全麻痺(手足が動かせない 感覚がない)や尿閉(尿がでない 出せない)になります。受傷後完全麻痺の状態が72時間以上継続すると神経回復の予後は極めて悪く歩行の可能性は見込めません。これは受傷後数時間程度では判断がつかないので診療にあたる側も注意が必要です。
不全損傷
不全損傷とは、損傷部を挟んで上下に何らかの神経伝導が存在する状態を指します。臨床の現場では、なんらかの随意運動(意識的に動かせる)や感覚が損傷部より遠位(遠い所に)認められます。その中でも最も損傷を受けにくく最初に回復してくる伝導路は仙髄領域の知覚であり外肛門括約筋の随意収縮であることは重要でよく知られています。
<麻痺の評価方法>
色々な評価方法がありますが特に有名(実際の臨床でもよく用いられるのが)なのがFrankel分類やASIA分類になります。救急の現場や急性期では前者の評価がよく用いられますが、日常生活能力の評価するには適しているとはいえないデメリットがあります。そのためFIM(functional independence measure)を用いることが推奨されています。FIMとは身の回り動作(セルフケア)、排泄コントロール、移乗動作、移動能力、意思伝達、社会的認知を18項目の分けて自立度を1点(全介助)から7点(完全自立)までの7段階の分けて点数化したものになります。
<治療>
急性期治療としては大きく以下の3つに分けられます。
①急性期ステロイド大量療法
②保存治療
③手術治療
<麻痺に伴う合併症>
①呼吸
頚髄損傷において最も重要な合併症は肺合併症になります。上位頚髄レベルの損傷を起こすと横隔膜が麻痺を起こし十分は肺活量を得ることが困難になり気管切開を要する場合があります。
②循環
完全麻痺などの重度頚髄損傷例では交感神経が遮断されることにより迷走神経が優位状態になり徐脈(脈が遅くなり)四肢の血管が拡張するため血圧が低くなります。血圧を維持するために昇圧剤を用いたりしますが、早期からの坐位訓練や立位訓練を含めた早期離床が何よりも大事になります。
③消化器
脊髄損傷においては消化性潰瘍が発生しやすいことが知られています。
④尿路
脊髄ショックの際には膀胱が緩み収縮することが出来ず尿閉となります。膀胱に1000ml以上の尿が貯留することも稀ではなく放置すれば尿毒症に至ります。感染の危険もあるため間欠導入を導入する事が望ましいです。
⑤褥瘡
脊髄損傷に限らず、術後や廃用に至って長期臥床を余儀なくされると褥瘡の発生が問題となってきます。褥瘡予防には3時間ごとの体位交換、毎日の皮膚清拭と観察が必要です。さらに早期からの経口摂取、関節拘縮を防ぐための早期からのリハビリ介入が望ましいです。
以上、脊髄損傷について簡単にまとめてみました。
本日は以上となります。
お読みいただきありがとうございました。
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