児童虐待と整形外科医
本日は児童虐待と整形外科医についてお話ししたいと思います。
私自身、今までの医師人生の中で児童虐待に出会ったケースは数件程度ですが、ゼロでないことを考えると、気づかれないままただの骨折、ケガとして見過ごされている件数はもっと多いと考えます。
そもそも児童虐待は把握しにくい傾向にあります。自分から「虐待しています」という親(大人)はいないですし、子供から詳しく状況を話しだす事なんて到底期待できません。
どのような状況で受傷したか、大人の話す内容につじつまが合っているか、医学的に損傷部位、損傷形態が妥当性があるか、疾患や偶発的な外傷によるもので問題ないか、といった事を医学的に判断します。
これに関しては、経験がものを言う事もありますが、直感的にピンとくる場面もあります。
子供が目を合わさない、伏目がちである、清潔感に欠ける(髪ボサボサ、服から糞尿の匂いがする、等)
では、虐待を強く疑った場合にはどうするのでしょうか?
まずは該当部位のレントゲンだけでなく、全身観察(可能なら裸になってもらう)、画像スクリーニングとして全身撮影を行います。
(米国小児科学会では2歳未満の場合は全例全身撮影が必須とされています。)
頭部CT 胸部CT 全身骨撮影
施設によって限界はあるでしょうがここまで徹底して調べるのです。
次に、どんな画像結果の時に虐待の可能性を疑うのでしょうか?
虐待による頭部外傷では、暴力的な振盪(揺さぶること)や受傷機転から偶発的な外傷で起こる頭部外傷とは異なります。例えば硬膜下血腫は虐待でより高頻度に認められます。
同じように骨折に関しては、
肋骨骨折(71%) 上腕骨骨折(48%) 頭蓋骨骨折(30%) 大腿骨骨(28%)
これら各骨折の確率が虐待に起因するという報告があります。
特に肋骨骨折は児童虐待で特徴的な骨折です。
乳児の肋骨骨折の80%は虐待によると言われており(※)、成人では心肺蘇生時の心臓マッサージで高率に肋骨骨折は起こるのですが、柔軟性に富んだ乳児の肋骨では例外的にしか発生しません。蘇生による胸骨圧迫を受けている場合には処置による骨折かどうかの判断が必要とされます。
(※Bullock B team al.Cause and clinical characteristics of rib fractures in infants.Pediatrics 2000;105:E48)
このように、児童虐待においては外傷を伴うことが多く、我々整形外科医が真っ先に診療することが少なくありません。
大半が、転んで怪我をした、友達とぶつかった、という具合で受診されますが、学会誌などでこのような話題に触れると、日々の診療の中でも緊張感を持って診療にあたる事が大切だと改めて痛感します。
本日は以上です。
(参考文献 J.Jpn.Ortho.Assoc.94:539-542 2020)
むつみクリニック 整形外科・骨粗鬆症専門外来
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