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ばね指

<概念>

手(または指)に存在する腱鞘の炎症性変化によって疼痛、腫脹、可動域制限や神経症状を引き起こします。いわゆるばね指(snapping finger)は屈筋腱腱鞘に発生する腱鞘炎(tenosynovitis)となります。

<解剖>

手指の屈筋腱腱鞘と滑車(pully:プーリー)は5つの輪状滑車および3つの十字滑車、さらに手掌膜滑車によって構成されています。腱鞘は摩擦を減じて腱の滑走を助け腱の栄養にも貢献しています。

屈筋腱腱鞘は種子骨のところ、つまりA1滑車(A1プーリー)で最も狭くなります。よってばね指は成人、子供ともに母指に発生する頻度が最も高くなります。

屈筋腱腱鞘の肥厚によってA1プーリー部での屈筋腱のpseudonodule(ふくらみ)を形成します。これにより屈筋腱の滑走障害が生じ、摩擦が増加することで滑膜過形成、腱鞘の肥厚、癒着形成を生じて炎症サイクルに入ることが原因となります。

<症状>

屈筋腱腱鞘炎によって、ばね指が生じます。徐々に疼痛を手掌末梢に自覚し近位指節間(PIP)関節に放散して、屈曲や伸展時にばね症状を呈するようになります。PIPへの放散痛はPIP関節周囲の病変と混同し診断を困難にする場合もしばしば認めます。次第に疼痛とばね症状が悪化し、可動域制限を引き起こし、指を伸展する際に他動的な伸展が必要となります。

そのあと手指は屈曲拘縮を呈するようになりますが、時には伸展拘縮を呈することもあります。臨床所見ではA1プーリーの位置に圧痛のある腫脹を認めます。

鑑別疾患としては、異物、ガングリオン、腫瘍性疾患などでもばね症状を呈します。他にはMP関節のロッキングと混同するケースもありますが、ロッキングは急激に発症し指節間(IP)関節の運動制限がないこと、伸展制限はあるが屈曲制限はないことなどがばね指との見分け方となります。

乳児や小児では疼痛のない手指の屈曲拘縮を生じます。上で述べたように母指に後発し25%は両側性で女児に発生しやすいです。腱そのものの異常や生下時の母指IP関節での強い屈曲反射が一因とされています。

<治療>

1、保存療法

安静、動作の制限、外固定、投薬などは軽症例や罹病機関の短いものには有効です。さらにステロイド剤の局所注射と害固定は72%に成功し、発症4か月であれば93%に成功し合併症はななかったとされています。局所注射の効果はだいたい50-60%に反応します。保存治療に抵抗性を示すものとしては、頻回のばね現象をきたす症例や屈曲拘縮を呈したもの、糖尿病を伴った場合に多いです。再発例も同様に局所注射に反応しますが効果は短いです。注射の間隔はだいたい3~4週間かえる必要があり合併症を最小限にするためには注射は2-3回を超えないようにすべきです。漫然と注射を続けることは正しい治療とはいえないでしょう。

注射薬剤に関しては、通常局所麻酔薬とステロイド剤を混合注入します。その際、確実に腱鞘内に注入することが重要で腱鞘に入れないことが重要です。そのためには、まずいったん腱内に刺入し少し抜き、注射抵抗が減少したところで注入する方法が推奨されています。しかしながら腱鞘内注射と腱鞘外の皮下注射を比較したところ結果に有意差はみられなかったとの報告があります。

2、手術療法

手術は局所麻酔や静脈麻酔で行います。病院によっては日帰り手術を行うところもあると思いますが入院が必要な病院もあります。

通常は皮膚の上から腱鞘炎の強い部位を硬結として触知することが可能です。(だいたいA1プーリーの直上であることが多いです)硬結部位に横または縦に皮膚を約2センチほど切開し展開しますが手掌皮線や手指皮線に達しないようにする必要があります。

さらに、A2プーリーを損傷しないことが重要です。通常はA1プーリーの腱鞘切開のみで十分ですが腱鞘の肥厚が強いときには腱鞘を切除します。リウマチの伴う病変の場合は屈筋腱滑膜切除が必要となります。手術では90%以上の成功率で治療効果も高いため保存療法抵抗性と判断すれば速やかに手術を検討することも大切です。

合併症としては不十分なプーリーの切離および過剰なプーリー切除による弓づる形成、屈曲時に中央に向かう手指の偏位があります。神経損傷については母指の橈側指神経に特に注意が必要となります。合併症予防には手術に駆血帯を用いて縦方向に剥離するといった工夫が必要となります。通常の腱鞘切開の後に駆血を解除して術中に自動屈曲可能であることを確認し術後早期に運動開始させるように勧めます。

<最後に>

このようにばね指は日常臨床においてありふれた疾患の一つです。保存療法で改善するケースもありますが一部保存療法に抵抗性を示す症例も存在します。その都度注射で対応する(手術を頑なに拒否する)方もいらっしゃいますが上記で述べたように手術による満足度も高いため2-3回の注射で症状改善を認めない場合は手術加療を推奨いたします。

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