メニュー

手根管症候群

<概念>

手根管症候群(carpal tunnel syndrome)は手指のしびれ感や疼痛を主訴とする絞扼性神経障害で、上下肢の絞扼性神経障害の中で最も多い疾患です。手根管の中を走行する正中神経が絞扼されるため、低位正中神経の症状を呈します。

<分類>

①特発性

最も多いです。本疾患の多くはいまだに原因が解明されていません。これらは特発性に分類されます。

②長期透析

10年以上の長期透析症例には、アミロイド沈着による手根管症候群が発症することがあります。

③占拠性病変

頻度は低くなりますが、占拠性病変が本疾患の原因となることがあります。ガングリオン、軟部腫瘍(神経鞘腫、血管腫、脂肪腫など)、石灰沈着性腫瘤、痛風結節などの報告があります。

占拠性病変ではありませんがKienbock(キーンベック)病も本疾患の原因となりえます。

④外傷

橈骨遠位端骨折後に発症することがあります。(手術で挿入した金属による干渉など)その他には手関節の外傷後やギプス固定後などに発症する場合もあります。

⑤腱滑膜炎

頻度は低くなりますが著名な滑膜炎を伴った手根管症候群の報告もあります。高度の滑膜炎が腫瘤状となり手関節に弾発現象を生じることもあります。

⑥妊娠

妊娠や出産に関する手根管症候群もあります。一般的に予後は良好で手術が必要となることは少ないです。

⑦内分泌疾患

糖尿病、甲状腺機能低下症に発症することがあります。

<疫学>

特発例は40-60歳代、特に50歳代の中年女性に多いです。小児例は少なく脂質代謝異常など、何らかの原因を有するものが多いとされています。妊娠や出産に関連した症例はその年代に多く、男性例にも特発性のものがあります。とはいうものの、なんらかの原因を有するものに発症しやすいとされています。

基本的には手の使い過ぎ(overuse)が本症の発症に関与することが知られています。

<病態>

手根管は長母指屈筋腱、深指屈筋腱ならびに浅指屈筋腱が正中神経とともに走行する狭い筒のようになっています。骨性要素により囲まれていますが、掌側は横手根靭帯で閉鎖されています。なんらかの原因で手根管内圧が高まると正中神経の障害が発生します。神経の障害は段階的に進行します。まず手根管内圧が高まると、blood-nerve barrierが破綻し、次に節性脱髄が起こり、さらに内圧が高まることで長期間の後に軸索変性へ至ります。除圧されない限りこの変化は進行します。

<症状>

本疾患の主訴は手のしびれおよび疼痛です。重症化すると母指球筋の麻痺による母指運動障害が出現します。その他に、頻度は低いものの手のこわばり感、指屈曲伸展障害、Raynaud(レイノー)現象を訴えることがあります。滑膜炎が高度な症例では指の屈曲により手関節部に弾発現象を生じます。

  • しびれ、疼痛

手根管症候群は手指のしびれ感や疼痛が主で、しびれを感じる部分は正中神経支配領域となります。一般的には中指と環指のしびれが強い傾向にあります。初期には明け方のみにしびれ感を訴える間欠的しびれでがメインとなります。他には手を使い過ぎた後にしびれ感が増強する、自転車のハンドル、傘を持つとき、などにしびれが増強することもあります。夜間痛で睡眠が妨害されたり悪化すると持続的にしびれを感じるようになります。明け方に症状が強い傾向があります。

  • 母指対立障害

軽症例では母指の運動障害は認めません。しかし重症化すると母指球筋の筋力が低下し母指対立や掌側外転が障害されます。次いで母指球筋委縮が出現します。これらの症状は徐々に進行するので初診時に指摘されて初めて気づくことも多いです。母指の対立が障害されるとコインがつまみにくい、ボタンがとめにくい、箸が使いにくいなどの症状が現れます。洗い物をするときに感覚障害も合併するとお皿を落として割ってしまうこともあります。

<検査>

①電気生理学的検査

最も信頼性の高い検査で、その中でも特に神経伝導速度測定が重要です。

②画像診断

  • レントゲン検査

橈骨遠位端骨折、石灰沈着、Kienbock病などの鑑別を行います。特に手根管撮の診断的意義は高いです。

  • 超音波検査、MRI

占拠性病変、とりわけガングリオンでは診断的価値が高いです。

<鑑別>

手指のしびれ感を訴える疾患が鑑別に挙げられます。

糖尿病性神経障害、頚椎症性神経根症、胸郭出口症候群などは頻度が多いです。さらに注意を要するものではdouble crush syndromeといわれる頚部の神経障害と合併する病態に注意が必要です。

<治療>

  • 保存的治療

母指球筋委縮がなく、しびれ感も間欠的は軽症例が保存治療の適応となります。いろいろな方法がありますがステロド剤の注入と装具両方が特に有効とされています。

  • 手術的治療

保存的治療に抵抗する症例や中等度以上の母指球筋委縮がありしびれ感の強い症例で手術適応があります。また術前検査で占拠性病変が明らかなものも対象となります。

手術は正中神経の除圧を目的として横手根靭帯の切離が行われます。

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME