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感染性膝関節炎・化膿性膝関節炎

<概念>

感染性膝関節炎(化膿性膝関節炎)は感染性関節炎の中で最も頻度が高く、何らかの経路で膝関節に侵入した感染源が急性または亜急性に関節炎を起こします。従来、小児と成人の発生例が多かったが、近年新生児および高齢者での発生例が増加しています。この背景には未熟児医療の進歩や免疫不全宿主(immunocompromised host)、糖尿病患者の増加およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の増加が影響しています。

さらに、人工膝関節置換術後の感染は症例数の増加に加えて治療に難渋する例が多く臨床上の問題となっています。

感染性膝関節炎(化膿性膝関節炎)は膝関節内に侵入した感染源によって分類されます。以下では主に化膿性膝関節炎について述べたいと思います。

<病因>

起炎菌は黄色ブドウ球菌が最も多く、全起炎菌の約80%を占めます。さらに近年MRSAの占める割合も増加しており糖尿病患者や高齢者などの免疫不全宿主では表皮ブドウ球菌や大腸菌、肺炎桿菌、真菌、嫌気性菌などの弱毒菌が起炎菌となる場合も少なくありません。

感染経路は以下の三つに分けられます。

①血行生感染

②外傷や手術、関節内注射などによる膝関節への直接的な起炎菌の侵入

③膝関節周囲の骨組織や軟部組織からの感染の波及

血行性感染は乳児や小児例で多く認められます。膝関節への直接的な菌の侵入は原因として最も多く、特に不潔な操作による関節穿刺やステロイド薬、ヒアルロン酸製剤の関節内注射によるものが多いです。

本疾患の病態は、膝関節内に侵入した起炎菌による急性の滑膜炎であり、滑膜組織中に好中球やマクロファージの浸潤および微小膿瘍(microabscess)が認められ、時間の経過とともに関節軟骨の変性が生じます。

<症状>

典型例では、膝関節の違和感に始まり急激に疼痛・腫脹・発赤・熱感が出現します。強い疼痛と腫脹のため関節可動域は制限され、起立歩行も不可能な場合があります。全身的には悪寒・戦慄に続き発熱し、重症例では敗血症性ショックを呈することもあります。新生児や乳幼児の場合には上記症状に加え不機嫌、患肢を動かさない、食欲不振といった症状がみられます。

<検査>

  • 血液検査

血液検査では強い炎症性変化を示し白血球増加、赤沈亢進、CRP上昇がみられます、敗血症などの重症例では、動脈血培養で起炎菌が同定される場合が多いです。

  • 関節液検査

関節穿刺で得られた関節液の性状は、膿状または強い混濁性を示し、白血球数の増加、関節液中の糖値の低下を示します。また関節液の塗抹検査や培養で細菌が証明されれば確定診断となります。

  • 画像検査

①単純X線

初期には変化を認めず長期化すれば患肢を動かさないことによる関節周囲の骨萎縮像や関節面不整を示します。感染が骨へ及ぶと骨溶解像や欠損像を認めます。

②MRI

膝関節内の液貯留、滑膜増生、軟骨面の不整や変性所見を認めます。画像上の範囲が実際の病巣よりも拡大している場合が多く注意が必要となります。

<診断>

確定診断は関節液培養からの菌の同定によるが培養の陽性率は70%にとどまります。決して高い確度を持っているとは言えず関節液培養が陰性の場合には局所所見、血液検査所見、病理学的所見、関節液性状から総合的に判断します。

鑑別診断としては急性の膝関節炎を生じる疾患が挙げられます。

細菌以外の原因による感染性膝関節炎としてはウイルス性や真菌性のものを鑑別する必要があります。非感染性炎症性疾患としては関節リウマチおよび膠原病による関節炎、結晶性関節炎(痛風、偽痛風)、反応性関節炎(Reiter症候群)などがあります。

<治療>

化膿性膝関節炎の治療のゴールは感染の沈静化と関節機能の温存になります。そのため早期診断と的確な治療が重要です。

①保存治療

本疾患は保存治療のみでは改善する可能性は低いです。患部の安静、抗生剤の点滴などで沈静化することは稀で、保存治療開始後1-2日経っても症状の改善が見られない場合は速やかに手術治療へ切り替えるべきです。

②手術治療

主に感染沈静化を目的とした手術治療について述べます。

いくつかの手術方法がありますが、その中でも関節鏡視下デブリドマンは良好な成績が報告されています。この方法は膝関節に対する侵襲も小さく化膿性膝関節炎に対する手術治療の第一選択とすべきです。

手術を決断するタイミングとしては化膿性膝関節炎の診断が確定もしくは本疾患を強く疑った場合になります。可能な限り速やかに1回目の関節鏡視下デブリドマンを行います。

膝関節への周囲に約2−3cmほどの小さい穴(ポータルといいます)を開けそこからカメラおよびシェーバーなどを挿入し大量の生理食塩水とともに洗浄および滑膜切除を行います。経過により、この方法を数回行うこともありますが、感染の沈静化が得られない場合や関節内から骨髄内に感染が波及していると判断した場合には関節切開によるデブリドマンを行います。

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