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肩峰下インピンジメント症候群

<定義>

肩峰下インピンジメントとは、上腕骨大結節と棘上筋腱停止部が、烏口肩峰アーチ(coracoacromial arch)を通過する際に生じる、棘上筋腱の機械的圧迫を意味します。この機械的圧迫はと棘上筋腱に集中して発生し、圧迫力は腱の断裂を発生しうる大きさになるほどです。肩峰下インピンジメントを発生する病因は複数存在し、特徴のある臨床所見が観察される場合、肩峰下インピンジメント症候群(subacromial impingement syndrome)とよんでいます。

<病因>

肩峰下インピンジメント症候群にはいくつかの病因が関与します。20歳未満の若年者では腱板やアキレス腱、膝蓋腱の停止部のいわゆるenthesis(腱付着部)に腱の変性や脆弱化は生じておらず、加齢とともにenthesisの腱変性が進行します。腱板でも同様に加齢とともに腱の変性が進行しますが他の部位と比較して異なる点は、腱の変性と臨床症状が関連することです。その原因は烏口肩峰アーチを通過する際に生じる棘上筋腱の機械的圧迫、つまり肩峰下インピンジメントによる機械的炎症の出現になります。この炎症が腱板の変性を助長させます。

①肩峰の形態

肩峰は、烏口肩峰アーチの主要構成体であり、成長とともに増大して形成されます。また、個体差があることも知られており、肩峰の形態の個体差は棘上筋腱が烏口肩峰アーチを通過する出口の狭小化をもたらし肩峰下インピンジメントを発生しやすい解剖学的な素因となっています。その他の肩峰形態異常として鎖骨遠位端の突出と肩峰骨端核閉鎖異常などが指摘されています。

②棘上筋腱の変性

enthesisでの腱の変性は加齢とともに進行するが棘上筋腱でも血行が少ないいわゆるcritical zoneに腱の変性が発生します。棘上筋腱の変性が腱板の局所的な緩みを形成し、これが肩峰下インピンジメントを助長して腱の機械的炎症と断裂を引き起こす一因と考えられています。

③外傷とoveruse

肩峰下インピンジメントは肩の外傷後に発症することが知られており、腱板の不全断裂や大結節の骨折により肩峰下滑液包に急性炎症が発生し、これが慢性化します。また、overactivityを必要とするスポーツ選手や労働者は肩峰下インピンジメントを発生する肩の挙上肢位による動作を反復して行い、肩峰下滑液包に慢性炎症を引き起こし、さらに刺激を受けた滑液包の繊維化により肩峰下インピンジメントが増強します。

④石灰沈着

大結節周辺の腱板停止部に石灰が沈着し、これが肩峰下インピンジメントにより刺激を受け、肩峰下滑液包に結晶性滑膜炎(crystal-induced synovitis)が発生します。

<病気と後発年齢>

Neerは肩峰下インピンジメントを棘上筋腱の機械的炎症と退行変性をしてとらえ、病期を分類しています。

第1期(急性炎症期):外傷で棘上筋腱に出血と浮腫が発生し局所の安静により経過とともに消退する。好発年齢は25歳以下です。

第2期(亜急性炎症期):外傷を繰り返すことで慢性腱炎となり、1時的に炎症は消退しますが過度な使用で再発します。好発年齢は25-40歳となります。

第3期(腱断裂期):肩峰下インピンジメントが持続するとcritical zoneの棘上筋腱は肉眼的に摩耗され棘上筋腱、肩峰下滑液包、烏口肩峰靭帯に不可逆的変性が生じ、腱が断裂します。好発年齢は40歳以上が多いです。

<臨床所見>

①肩峰下ペインフルアーク(painful arc)

 肩関節を120°挙上位置から60°まで下降させ、腱板に緊張を与えると疼痛が発生します。

②インピンジメント徴候とインピンジメント注射テスト

 肩甲骨の回旋を制動した状態で肩関節を他動的に前方挙上させ疼痛を誘発した場合、インピンジメント徴候が陽性と判断します。さらに局所麻酔薬を肩峰下滑液包に注入しペインフルアークが消退した場合に陽性と判断し補助診断とすることもあります。Hawkinsは肘を屈曲して肩関節を最大内旋位とし、他動的に屈曲させて疼痛の誘発を観察します。(Hawkinsのインピンジメント徴候)

③筋力低下

 病期が第2期から第3期に進行し腱板に不全あるいは完全断裂が発生した場合、外転外旋筋力が低下します。左右を比較するとその差が明瞭となります。

<画像所見>

MRI:画像描出能力の急速な進歩により肩関節を構成するすべての軟部組織の病態が判定可能となりました。肩峰下インピンジメントでのMRIの特徴はT2強調画像での棘上筋腱の高信号化になります。ほかに肩峰下滑液包の液貯留、腱表面の不正像などがあります。注意すべき点は高齢者の棘上筋腱には非症候性の腱板断裂が存在することです。

<治療>

①保存治療

 第1期では棘上筋腱に炎症と浮腫が存在するため肩を安静にします。ペインフルアークが生じる高さで上肢を用いる。一定期間の安静を行った後、ストレッチや筋力強化を中心とした運動療法を行います。第2期では慢性炎症を断ち切るため局所安静とともに肩峰下滑液包内にヒアルロン酸またはステロイド投与を行います。また腱板機能訓練や可動域拡大訓練も併用します。

②手術治療

 第2期の後半あるいは第3期では肩峰形成術や腱板縫合術が行われます。

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