今回は膝の靱帯損傷のうち高頻度を占める前十字靱帯(anterior cruciate ligament,ACL)についてお話しします。
ACL損傷は主にスポーツ中に生じることで有名な疾患です。
この疾患について問題点と主に現在の手術治療(再建術)について分かりやすく述べたいと思います。
ACL損傷の診断方法
主に二つの代表的な(整形外科医なら誰もが知っている)手技があります。
Lachman test 膝を軽く曲げながら脛骨前方引き出しストレスを加える
pivot shift test 外反ストレスを加えながら膝を屈曲位から伸展させる
ACL損傷に対する治療の問題点
上で述べたように、スポーツに関連する損傷が高頻度であり、スポーツ復帰率に対する問題があります。
ACL再建術後のスポーツ復帰率に対して研究したデータによるとACL再建術後になんらかのスポーツ活動に復帰できたのは81%であるが、受傷前の活動レベルに戻った患者は65%、試合に出場できるレベルまで戻った患者は55%でした。
スポーツ選手に限らず手術を受けるからには「ケガをする前の状態に戻りたい」と思うのは当然のことでしょう。プロであれば尚更です。そのためACL断裂を一旦引き起こすと選手生命に関わるというのは容易に理解できると思います。
次の問題点はACL再建術後の膝不安定性になります。2000年以降に行われた新しいACL再建術においても術後に約20%の症例でpivot shift陽性所見が現れることがわかっています。これは次に述べる早期の変形性膝関節症へとつながります。
ACL損傷を放置した場合には10年で20%の症例にレントゲン上でKellgren-Lawrence(KL)分類3度レベルの関節症性変化が見られ15年ほどで6割の症例にKL分類2度の変化が見られます。
ACLを受傷することで正常な膝に比べ3−4倍の変形性関節症発症リスクがあります。加えてACL再建術を行なってもpivot shiftの十分な制御効果が見られず長期的な合併症(不安定性、変形性関節症変化)を防ぐことができません。
次回はACL再建術の手術およびACL損傷の合併症、再建術後のスポーツ復帰について述べたいと思います。
本日は以上です。
(参考文献 前十字靱帯再建術の過去・現在・未来 黒田良裕 J.Jon.Orthopedic.Assoc.95:29-36 2021)