前回のブログの続きになります。
ACL(前十字靱帯)の解剖学的特徴についてですが、前十字靱帯は前内側(AM;anteromedial)と後外側(posterolateral;PL)の二つの繊維束で構成されています。ACL再建術は古くから1本の再建靱帯を移植する方法が主流でしたが、2000年以降、それまでのACL再建術ではpivot shiftの残存や正常な膝kinematicの再獲得ができないということが問題となりました。
その結果二つの繊維束をそれぞれ独立して再建する解剖学的二重再建術が日本を中心に開発されるようになり、関節鏡を用いて鏡視下に骨性指標を確認できるようになったことで、より解剖学的位置に近い靱帯再建術を行うことができるようになりました。
ACL再建術の方法と問題
ACL再建には自身の膝屈筋(ハムストリング)腱と膝蓋腱のどちらかを使用する場合が多いです。
現状のACL再建術では移植腱を大腿骨、脛骨に作成した骨孔の中に挿入し、その後で移植腱が骨孔内で骨と生着することが必要となります。
しかし骨と腱が組織学的に十分な強度で接着するにはかなりの時間がかかることがわかっています。
日本整形外科学会による「ACL損傷診療ガイドライン」では移植腱の関節内の成熟はMRIや組織学的所見から考えて術後6ヶ月では完了していないと記載されています。そのため移植靱帯の成熟を早める方法の開発や新たな手術方法などの改良がスポーツ早期復帰につながる可能性があります。
ACL損傷に合併する軟部組織損傷について
半月板損傷はACL損傷に高頻度で合併することが広く知られており、内側半月板はACL損傷後の期間が長いほど頻度が増し、特に陳旧例のACL損傷膝に多く見られます。その一方で外側半月板はACL損傷と同時に発生することが多くなっています。
半月板損傷を伴うACL損傷膝は半月板損傷のないACL損傷膝に比べて回旋不安定性(pivot shift)が強く、特に外側半月板損傷を伴う場合にその傾向が強くなることがわかっています。
ACLの機能不全状態が続く合併症などを避けるためには受傷後6ヶ月以内の手術が望ましいとされています。
ACL再建術後のスポーツ復帰について
ほとんどのACL損傷患者は術後のスポーツ復帰を希望されています。
復帰に至るには膝周囲の筋力、動作時の運動調整機能も十分に回復が必要であり相当な努力を要します。一般的には個人差はあれど術後6ヶ月程度で復帰許可を出す施設が多いです。しかし上で述べたように移植腱の成熟には1年以上かかるためスポーツ復帰することで再建靱帯に対して過剰なストレスがかかり再受傷(re-injury)につながる事もあります。
ACL再建術後のスポーツ復帰の判断には膝関節そのものの臨床所見(水腫や可動域など)に加えて膝関節安定性や筋力の評価、スポーツ動作中のバランスや全身運動協調性などを評価した上で判断することが望ましいです。
以上、ACLに関して現時点の知見を簡単にまとめてみました。
本日は以上になります。
(参考文献 前十字靱帯再建術の過去・現在・未来 黒田良裕 J.Jon.Orthopedic.Assoc.95:29-36 2021)