日本でのワクチン接種対象者が急速に増加してきています。1日100万回も達成したようで、この流れが続けば普及スピードも勢いづきそうですね。
さて、本日は久しぶりの骨粗鬆症関連の話題となります。
人生100年時代と言われて誰も不思議に思わなくなってきた昨今ですが、やはり骨折はADLを低下させる大きな要因の一つであることには間違いありません。
大腿骨近位部骨折はいつ予防するのか
骨粗鬆症が原因として発生する脆弱性骨折は、加齢とともに発症率が上昇します。その中でも骨折部位に違いがみられ、閉経後には橈骨遠位端骨折の発生率が高くなりますが70歳以降はその上昇はなく、椎体(背骨)骨折の発生が多くなります。大腿骨近位部骨折はこれらの骨折よりさらに高齢の70歳代後半から徐々に発生率が高くなり、80歳代以降に指数関数的に発生率が高まります。
脆弱性骨折の既往があると、加齢や骨量減少とは独立して、骨折のリスクが上昇し、骨折が骨折を呼ぶことになります。これは「ドミノ骨折」と称されます。大腿骨近位部骨折の半数はすでに脆弱性骨折を有していることが多く、つまり大腿骨近位部骨折を予防するためには脆弱性骨折例をターゲットにして治療を行うことが重要となります。
大腿骨近位部骨折の予防戦略
骨折の発生は骨強度と外力の両方の関係で決まります。骨粗鬆症の骨強度を改善すれば骨折のリスクが低くなりますが、骨強度が低くても外力が加わらなければ骨折のリスクが低いです。大腿骨近位部骨折はその80%が転倒、5%が階段からの転落によって発生します。そのため大腿骨近位部骨折の予防には骨粗鬆症の予防,治療とともに転倒予防が挙げられます。
この骨粗鬆症に対する予防、治療において多くのエビデンスを有する者が骨粗鬆症治療薬による薬物療法です。近年、数多くの骨粗鬆症治療薬が開発、臨床応用されています。加えて、運動療法や環境整備などの転倒予防も重要な大腿骨近位部骨折予防対策であり、骨折リスクの高い高齢者では必ず実施すべき介入とされています。
大腿骨近位部骨折のリスクを低減させる薬剤選択
大腿骨近位部骨折のリスク低減を目指した薬物治療ではビスフォスフォネート薬およびデノスマブ、ロモソズマブ、テリパラチドが推奨されています。(2021年6月現在)
最近欧州でまとめられたアルゴリズムによると、骨折リスクが極めて高い例では、まず骨形成促進薬(わが国ではテリパラチドとロモソズマブ)を選択し、その治療期間終了後にビスフォスフォネート薬あるいはデノスマブの投与が推奨されています。その理由は骨形成促進薬を先に使用し、骨吸収抑制薬を使用したほうが、その逆の順に使用した場合よりも骨密度増加も骨折抑制効果も大きいためです。
上記を踏まえると、大腿骨近位部骨折のリスクが高い例では、まず骨形成促進薬を投与した後に骨吸収抑制薬を投与することが勧められます。
本日は以上となります。
(参考文献 人生百年時代の大腿骨近位部骨折予防を目指した骨粗鬆症治療 荻野 浩;The Journal of Japan Osteoporosis Society Vol.7 No.2 2021 154-158)
むつみクリニックでは骨粗鬆症専門外来を設置しており、患者様一人ひとりに最適な治療方法、アドバイスを行っております。どうぞお気軽にご相談ください。