お役立ちコラム

妊娠後骨粗鬆症にならないためにはどうしたら良いか

2021.09.16

妊娠後骨粗鬆症(pregnancy and lactation-associated osteoporosis;PLOP)は若年女性が妊娠期または授乳期に初めて脆弱性骨折を起こす比較的稀な疾患です。これまでにも多くの症例報告がなされているものの、病態に関しては不明な点が多く治療法は確立されていません。

典型的な症状は分娩直前から産後6ヶ月までに腰背部痛を主訴として発症し、主に椎体の脆弱性骨折を伴います。

私自身も臨床で遭遇したことがあり、大学病院へ紹介した思い出があります。今回はそんな妊娠後骨粗鬆症(PLOP)についてのお話になります。

妊娠が骨代謝に及ぼす影響

平均的に胎児は骨格中に蓄えるカルシウムの約80%を妊娠末期(妊娠28週以降)に獲得します。このため妊婦の腸管からのカルシウムの吸収効率が倍増します。

また、胎児へのカルシウム供給の一部は妊婦の骨吸収によっても賄われることが研究により明らかにされています。妊婦では骨吸収マーカーは非妊婦と比較して妊娠初期から上昇する一方で、骨形成マーカーは妊娠前のレベルより低く抑えられたままです。

更には、副甲状腺ホルモン(PTH)と受容体を共有する副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)は乳腺と胎盤から分泌され、そのレベルは妊娠末期に最高となるため妊娠中に骨吸収亢進状態となる事が説明可能です。

授乳が骨代謝に及ぼす影響

母乳中の母親からのカルシウム供給量は約210mg/日に達し、6ヶ月齢までの新生児の栄養を母乳のみで賄おうとする場合には妊娠全期間の約4倍のカルシウムが必要となります。

母乳中のカルシウムの大半は授乳婦の骨格の再吸収により賄われます。

詳細は「脳乳骨相関」というホルモンシステム系によるもので割愛しますが、上記で述べたPTHrPと卵巣からのエストラジオール(E2)の現象がお互いに骨吸収を増加させます。

授乳婦の体内カルシウム量が減少することは明らかであり閉経後女性が平均して毎年1-2%の骨を失うのに対して授乳婦は毎月1-3%(!!)の骨を失います。以上のことからもエストロゲン欠乏以上にPTHrPが重要な役割を果たすことが分かります。

残念なことはいくら食物でカルシウム摂取量を増加させても授乳中の骨減少を抑制できないことが示されています。

対応策と予防

ではどのように対応および予防すればよいのでしょうか?

離乳・最大骨量(骨密度)を増やす、になります。

離乳とともに急速に骨吸収の抑制と骨形成の促進が起こり骨密度は6-12か月かけて妊娠前の値に戻ります。大多数の女性は妊娠や授乳期に見られる生理的な骨密度低下を問題なく乗り越えますが、低栄養や妊娠前に十分な最大骨量を獲得できなかった場合には脆弱性骨折を起こすと考えられています。

 

本日は以上となります。

お読みいただきありがとうございました。

(参考文献; 妊娠後骨粗鬆症 寺内公一;The Journal of Japan Osteoporosis Society Vol.7 No.3 2021,427-429)

むつみクリニック 整形外科・骨粗鬆症専門外来

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