肩関節周囲炎(五十肩)

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概念

いわゆる五十肩は50歳前後に生じる誘因のない動きの制限を伴った肩関節痛の症候群です。これは正式な病名でなく俗称です。

欧米ではperiarthrite scapulohumerale,frozen shoulderなどと呼ばれています。このような加齢に伴う、あるいは高齢者の肩痛という概念を表した疾患名は欧米には見られません。日本では「五十肩」という言葉があたかも疾患名のごとく用いられています。

最近では画像検査の進歩と関節鏡による観察のおかげで高齢者の肩痛を生じる様々な病態が明らかになっており、中には腱板断裂、石灰性腱炎、肩峰下滑液包炎、上腕二頭筋長頭炎、上腕二頭筋長頭腱断裂などが含まれています。そしてこれらを除外して残された誘因のない肩関節の痛みを伴った運動障害(拘縮)を五十肩と呼ぶようになっています。

肩の拘縮を原因の明らかでないprimaryと明らかなsecondaryに分けた時に一般的に狭義の五十肩はprimary frozen shoulderに相当します。

病態

五十肩には誘因がないとされていましたが、前方関節包の伸展機転が関与しているといわれています。関節鏡やMRIによる検査で腱板疎部から肩甲下筋腱下滑液包付近の関節包にその起源を求めるものが多いです。

症状

50歳頃を中心に30から70歳代までに及びます。女性の方が男性より多い印象で、痛みがない場合や車の後部座席のものを取ったり肩を挙上して仕事したなどを契機として生じます。

ある日、肩を上げようと思ったり後ろに手を回そうとして肩の固さに気がつくことがあります。日常生活では髪をとかす、帯やエプロンの紐を結ぶ、洗濯物を干すなどの外旋、内旋、挙上動作や後ろの物を取るなどの水平伸展の動作が困難となります。

通常は経過を3つに分けることが一般的です。

①freezing phase

当初何もしなくても、ジンジンするような痛みを肩の前方あるいは奥に感じることがあります。痛みは肩のほか上腕へ拡散するケースもあり、この時期をfreezing phaseと呼びます。肩の動きは痛みのため著しく低下し約4週間ほど続きます。(個人差はあります)

②frozen phase

拘縮が完成すると日常生活動作の障害も明らかになります。外旋、内旋、挙上、水平伸展などのあらゆる方向への制限が生じ就寝時の寝返りで目が覚めることもしばしばあります。この時期をfrozen phaseと呼び、温めたり風呂に入ったりすると症状が軽減することが多いです。この時期は3-12ヶ月、あるいはより長期に及ぶことがあります。自覚的な痛みは軽減しますが、体に密着した服の着脱や結髪なども動作が不便となります。

③thawing phase

日常生活の工夫や保温に努めている間に徐々に肩の動きが改善してきます。夜間痛が改善し日常生活の痛みも我慢できるようになってきます。この時期をthawing phaseと呼び数ヶ月から1年ほど続きます。この頃になると肩の可動域の低下に患者自身が慣れてしまい日常生活の不自由を感じなくなった時点でも肩の可動域が正常まで戻らないこともあります。

鑑別診断

五十肩の診断とは除外診断ないし鑑別診断になります。場合による血液学的検査も必要となります。

以下の疾患が代表的です。

糖尿病、甲状腺疾患、心血管病変、頚部神経症、反射性交感神経性ジストロフィー、片麻痺、腫瘍性疾患、、

さらに肩関節疾患では

腱板断裂、石灰性腱炎、上腕二頭筋長頭炎、変形性肩関節症、

上腕骨頭壊死症、変形性肩鎖関節症など、、

治療

①freezing phase

無理に肩を動かさず三角巾やshoulder braceを用いて外旋を制限するようにして除痛を図ります。さらに保温に努めNSAIDsをはじめとする薬物療法、腱板疎部や肩峰下滑液へのブロック注射やヒアルロン酸注射を行います。

②frozen phase

温熱療法やストレッチ、振り子運動などの理学療法を行います。併せて薬物療法や肩への注射も行います。

手術療法としては全身麻酔下でマニピュレーションを行ったり、鏡視下関節包解離術や観血的関節授動術を行います。

③thawing phase

保存療法を行います。徐々に自動可動域を増しながらストレッチを継続します。

予後

五十肩の予後は一般的に良好です。本疾患の診断治療で最も重要なことは鑑別診断です。患者が診断とともに自身の肩の痛みや動きの予後を知ることは当然ですが、我々治療する側が予測に当たって多くの要因が関与することを説明し患者に理解してもらうことが重要となります。

保存的治療で疼痛が増悪する場合や、痛みの範囲が肩疾患として非典型的な場合で治療効果が不十分な場合には、神経疾患などを考慮していま一度診断を振り返ることも重要と言えます。

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