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小児骨折の特徴
小児の骨折は、一般的には骨の成長が完了するまで、新生児から女子は14-15歳、男子は16-17歳までに発生する骨折を指します。小児の骨は成人には見られない特徴を有し、その特徴を十分理解して治療することが良好な治療成績を得るために大変重要です。
小児の骨の特徴
①柔軟性
小児の骨は柔軟性に富んでいることが大きな特徴です。厚い骨膜が骨の周りを取り囲んでおり大きな外力が加わっても連続性が絶たれづらく転位(ズレ)が生じにくいです。典型例が若木骨折や隆起骨折です。
②自家矯正能
骨折後の治療過程でみられる自家矯正能が成人と比べて高いです。屈曲転位は一般的には20°まで許容されています。側方転位は骨の全横径程度が限界とされています。短縮転位は骨折後の過成長を見込むとむしろ望ましいとも言えますが、2cm程度までとされています。それに比べ回旋転位は自家矯正力が働かないので十分な注意が必要です。
③過成長と成長抑制
しばしば骨折の治癒過程でみられるのが過成長です。骨折の治癒機転に伴う血流の増加によって骨端軟骨板での成長が促進されることによるものです。反対に小児の骨には骨端軟骨板が存在するためそこに傷害が加わると長径成長の抑制で短縮や変形が起こります。
上記①〜③の特徴からして治療は保存療法が基本となります。しかし小児骨折の中でも手術を必要とする骨折があります。代表的な例が骨端線損傷で転位の大きいものです。その他には大腿骨頚部骨折や正確な整復を必要とする関節面を含んだ骨折なども手術療法の適応となってきます。
見逃しやすい骨折
①モンテジア骨折
尺骨骨折に橈骨頭の脱臼を合併する骨折のことを指します。
診断の際にはつい注目してしまいがちな尺骨の骨折だけでなく疑いの目で橈骨頭の脱臼がないか位置を観察することが重要となります。また前方凸の尺骨骨折に橈骨頭の前方脱臼を伴うBado分類1型が最も頻度が高くなります。
②急性塑性変形(acute plastic bowing)
生理的な骨弯曲に長軸方向の圧力が加わって発生すると考えられています。尺骨に多く見られます。病態は生理的弯曲の凹側の微小骨折(microfracture)です。この場合単純レントゲンでは骨折線は認めず診断に難渋します。4-6週間後変形の凹側に骨皮質の肥厚がみられるようになります。
頻度の高い骨折
①上腕骨カ上骨折
小児の肘周辺骨折の中で最も多く約60%を占めます。
骨折に転位が伴えば診断は容易で、肘の変形、腫脹が明らかなことが多いです。骨折の有無だけでなく循環障害(Volkmann拘縮)や神経障害にも注意が必要です。治療は保存療法が第一選択ですが合併症である内反肘を起こさないように治療することが重要です。合併症としては内反変形による尺骨神経麻痺があり、手術適応となります。
②疲労骨折
疲労骨折とは骨に軽微な外力が繰り返し加わることによって起こります。通常スポーツ活動の中でのトレーニングによって起こることが多いです。
大部分は中学、高校生に見られ幼少時には稀です。発生部位は小児では脛骨、腓骨、中足骨に多く、肋骨、恥骨などにもみられることがあります。
診断として重要なのはスポーツ歴になります。大きな外傷がないにも関わらず疼痛を訴え局所の圧痛腫脹熱感を伴う場合は、スポーツ歴、疼痛の期間などを細かく聴取する必要があります。
通常、初期にはレントゲンで異常は認めず本疾患を疑えば運動の休止、疼痛が強ければ固定や免荷を行い必ず1−2週間後にレントゲンを再評価します。
骨折であれば疼痛に一致した部位に骨膜の肥厚像と骨硬化像が認められます。
早期に診断をつけたければMRIが有効です。なお鑑別疾患としては腫瘍性疾患や骨髄炎を念頭に入れる必要があります。
骨端線損傷
骨端線損傷とは骨折などにより骨端部と骨幹端の間にある成長軟骨帯が様々に損傷を受け骨の長径の成長が障害される状態をいいます。
骨端線損傷の分類にはSalter-Harris分類が広く用いられ五つに分けられます。
一般的にⅠ型、Ⅱ型は整復良好なら成績も良く、Ⅲ型、Ⅳ型は解剖学的に整復することが求められます。しかしながら必ずしも成績が良好とはいえません。Ⅴ型は骨折の転位はないが骨端軟骨が圧縮などにより損傷を受けた場合で受傷時には診断されないことの方が多いです。発育に従って徐々に変形が出現してきます。
今のところ確実に骨端軟骨を修復する治療法はありません。そのため短縮や変形などが発生した場合には、変形に対しては矯正骨切り術、短縮に対しては骨延長術などで対処することになります。
以上のように小児の骨折に関しては成人の骨折と違う点が多数認められます。また骨折時の年齢や受傷部位、損傷タイプによっても治療法は異なるため、小児骨折に対応できる整形外科専門医の受診を受けることが重要になります。機能障害や変形を起こさないことが一番ですが、残念ながらそのような症状を呈した際に、より適切な治療を受けることが可能な施設への紹介、転院をスムーズに行うことが求められます。